挿し木は茎や葉、根等の植物の一部を用いて行う繁殖方法です。切った茎を土に挿すだけと手間がかからないため非常に人気の高い増殖方法ですが、挿し木が活着するまで時間がかかり管理方法ややり方を間違うと根が出なかったり、葉が落ちたり、切口が黒く変色する等して枯れてしまうことがあります。
挿し木を成功させるには適した時期や環境を整え、挿し穂や用土をしっかり選び失敗のない少ない挿し木をする事が大切です。
目次 |
挿し木から根が出ない理由
挿し木は100%成功するものではありません。様々な理由で発根しにくくなったり、発根しないまま枯れてしまう事があります。まずは挿し木が失敗する原因を知り、同時に正しい挿し木の方法を探る事で成功率を少しでもあげましょう。
挿し木が失敗する主な理由
真夏や真冬に挿し木する
真夏や真冬は挿し木に向かない時期です。高温や強光、乾燥等のストレスが複合的に重なる真夏は挿し木を行うにも非常に過酷な環境なのはもちろん、真冬では乾いた風が葉を乾燥させ落葉しやすくなったり、また寒さで成長が止まるため発根しなくなります。真夏や真冬も挿し木は行われますが、成功率が高いのは適した時期に行われる挿し木です。
【挿し木に適した時期】に移動
古い枝や新芽を挿し木する
古い枝や新芽は一般的に挿し木に向いていません。挿し穂は古い枝ほど発根力が落ちるため挿し木に向かないのは当然ですが、新しい芽や茎も栄養をため込んでいないためこれで挿し木しても発根前に養水分が尽きて枯れることがあります。正しい挿し穂を選ぶ事も挿し木の成功率を上げる秘訣です。
【挿し穂の種類と選び方】に移動
挿し木を乾燥させる
挿し木が乾燥すると、発根が悪くなるだけでなく、吸水力が弱まったり、葉や茎が萎れて枯れる等、致命的な影響を挿し木に与えます。
挿し木の乾燥は水のやり忘れが原因で最も起こりやすいですが、気温の上昇や湿度の低下、葉の量、土の水捌け等も影響しています。適切な水やりと環境を整えて挿し木が乾燥しないようにしましょう。
【湿度と管理】に移動
【挿し木用土の選び方】に移動
挿し木に向かない用土
挿し木に向かない用土とは、雑菌の多い用土(花壇の土等)や粘土質で通気性のない用土です。基本的に挿し木は雑菌(真菌や細菌)に非常に弱く切口から侵入されると導管を塞がれたり腐食させられ発根しないまま枯れてしまいます。また通気性のない用土では酸素が供給されないため発根がわるくなってしまいます。
挿し木の用土は必ず通気性のいい無菌の用土を使用しましょう。
【挿し木用土の選び方】に移動
病気に侵される
挿し木が病気に侵される原因は様々ありますが、元々細菌性(萎凋病や根頭癌腫等)の病気やウィルス性(モザイク病等)の病気に罹っていたものは植物全体に感染がおよんでいる事があるため、症状が出てない部位でも使用しない方がいいでしょう。またこれら病気に侵された枝を切った後で健康な枝を切ってしまうと病気が伝染する原因になります。ハサミは交換するかアルコール消毒をしましょう。
挿し木が侵されやすい病原菌にピシウム菌やフザリウム菌等の真菌類があります。これらは広く土壌に常在する菌で、植物を腐食させたり導管を詰まらせる萎凋病を引き起こしますが、これらの真菌は土が水で浸された状態であると多数の遊走子を産出して切口から侵入してきます。そのため用土は無菌であり、水で浸さず適度な水分を保つ事が大切です。
【挿し穂の種類と選び方】に移動
【挿し木用土の選び方】に移動
【挿し木への水やり方法】に移動
発根しにくい植物
植物は種や品種により挿し木が難しいものがあります。成長を促す植物ホルモンであるオーキシンの活性が低く根が出にくいものだったり、発根阻害物質が多く含まれ挿し木が困難なもの、病気にかかりやすかったり、水切れをおこしやすく萎れやすい植物等です。
これらの種や品種は普通に挿し木をしても成功率が低く上手くいかないかもしれません。
下のリンクの様な発根促進剤の利用や発根阻害物質の除去を行ない。それでも難しい場合は株分けや取り木等の別の方法を用いて植物を増やすのも1つでしょう。
【発根促進剤の利用】に移動
【発根阻害物質フェノールの除去】に移動
【株分けが行える時期や手順】に移動
【取り木のやり方】に移動
挿し木を発根させるための対策
挿し木は非常に簡単な増殖方法ですが、様々な原因が元で失敗する事があります。その原因は挿し木時期を間違えていたり管理方法が間違っていたのかもしれません。挿し木に対して多くの知識を持つことは挿し木の成功率を上げる秘訣になるでしょう。
★挿し木に適した時期
挿し木は植物が成長する季節であればいつでも出来ますが、最も適した季節は5月〜6月頃です。梅雨に入る5月〜6月は挿し木に適した温度(15℃〜20℃)と高い湿度があり、茎もある程度成熟して栄養を貯めているため枯れにくく、発根力の強い新鞘を使えば挿し木の成功率は大幅に高くなります。
逆に真夏や真冬は挿し木に適していません。夏は暑さや強い日差しによって葉の萎れや葉焼けを引き起こしやすく、冬は寒さで成長が止まるため発根しなくなり、また冬の乾燥した風が葉の水分を奪い落葉させてしまいます。
挿し木で失敗しない為には適した期間内で行う、もしくは真冬では室内で管理、真夏では遮光ネットを利用するなど適切な管理をしてあげる事が重要です。
★挿し穂の種類と選び方
挿し穂を選ぶ時は健康で若い枝を選ぶようにしましょう。ウィルス病や細菌病に罹った植物は挿し穂に異常がなくても病気に罹っている恐れがあるため使用しないで下さい。また葉に真菌性の斑点病があるものは落葉しやすい上に他の挿し木への感染源になるため使用は避けましょう。
挿し木に使う挿し穂を選ぶ時は、日当りのいい場所にある節間の詰まった当年枝が最も適しています。古い枝も挿し木として使えますが、発根力が低く挿し木にむいていません。成長段階にあり緑が濃く硬さと柔軟性をもった枝が、栄養が豊富で発根力が強く最も挿し木に向いています。
挿し穂は茎の成熟度により軟枝挿し/緑枝挿し/半熟枝挿し/熟枝挿しの四つに分類されます。
軟枝挿し(4月〜)
軟枝挿しとは茎の成長点にある最も未熟で柔らかな枝を使用した挿し木です。発根力が高い一方で枯れやすいためやや難しい挿し木方法です。
緑枝挿し(5月〜)
緑枝挿しとは当年枝の新鞘を利用して行われる挿し木です。軟枝と比べると茎がある程度成熟して弾力をもっており、成功率が高い挿し穂です。
半熟枝挿し(8月~)
半熟枝挿しとは、茎が成長を止め硬くなる前段階の枝を利用して行われる挿し木です。養分を沢山蓄えているため枯れにくい一方で発根力は弱めなため挿し木が成功するまでに時間がかかります。
熟枝挿し
熟枝挿しとは成長が完全に止まり硬くなった枝を利用した挿し木です。養分を沢山蓄えているので枯れにくいものの発根力は弱く挿し木にはあまり向きません。
★湿度と管理
挿し木は湿度を高く保つことが成功の秘訣です。乾燥している状態では葉からの蒸散によって水分がどんどん奪われてしまい、最悪の場合は切口からの吸水が間に合わず萎れて枯れる事があります。湿度を100%近くに保つ事は、乾燥による萎れや枯れを防ぎ挿し木の成功に繋がります。
湿度を保つ方法
1.プランターや育苗箱に、挿し木を挿し上部からビニール袋を直接被せる方法は道具も袋だけでよく非常に簡単です。少量の挿し木を育てる際に使用するのがおすすめ。
2.育苗箱に被せるカバーを購入して使用する方法。複数の挿し木を同時に管理する事ができて便利です。
3.ミニ温室を購入して使用する。冬は耐寒性のない植物を入れる事もできます。
★挿し木用土の選び方
用土は必ず無菌の園芸用土を使用しましょう。挿し木は雑菌に弱いため雑菌の多い花壇の土などを使うと切口から挿し木が汚染されてしまい、水の通り道を塞いでしまったり、挿し穂を腐食させて枯れさせてしまいます。
また用土によって保水性や通気性、植え替えのしやすさ等に違いがあります。自分に合う用土を選び使用するのも挿し木を上手く行うコツです。
赤玉土 | |
楽天で購入 | 赤玉土(小)は保水性や排水性のバランスがよくバラ等の挿し木でよく利用される用土です。基本的には気相と液相の率が高い用土が挿し木に向きますが、比重が重い赤玉土は重く太い茎の植物の挿し木に向いています。しかし根と土が絡まると崩しにくいためポット等で1本ずつ管理する時に使うといいでしょう。 |
バーミキュライト | |
楽天で購入 | バーミキュライトは保水性が非常によく水分の管理がしやすい用土です。非常に軽いため重い植物では風で挿し木が倒れる心配があります。発根後の植え替えは簡単で土と根が絡まっても根を切る心配が殆どありません。 |
パーライト | |
楽天で購入 | 非常に通気性が高く発根がよくなる用土です。川砂と比べ非常に軽く、安価なため最近ではこちらを選ばれる方が多いでしょう。根と用土の離れがよく植え替えしやすいため同じ育苗箱で沢山挿し木を作りたい時におすすめです。 |
ロックウール | |
楽天で購入 | 保水性や通気性がよく水分の状態や根張りの状態がひと目で分かるため管理しやすい用土です。植付けもそのままでき根を傷付けないため初心者にもおすすめ。 |
挿し木への水のやり方
挿し木は乾燥に非常に弱いため常に湿り気のある状態を求めますが、同時に湿った環境は挿し木が病気の原因になる事も忘れてはいけません。
挿し木への水やりは、土や挿し穂が動かないように柔かな水、もしくはミストを使って行いましょう。受皿から底面吸水する方法もありますが、水をためたままにすると雑菌が繁殖して遊走子になり切口から侵入する原因になるため注意してください。ただしどうしても水やり出来る時間がないと言う人は受皿に水をためておき数日おきに水やりをするのもいいでしょう。
水分の管理は【用土の選択】によっても変わります。
発根促進剤の利用
発根促進剤には大きくわけて弱った植物を元気にする活力剤タイプ(メネデール等)たホルモン剤タイプ(ルートン等)があります。
活力剤タイプには鉄分等のミネラルやアミノ酸を補給する栄養成分が含まれます。
ホルモン剤タイプは発根を促進するオーキシン等が配合されており、活着率を高める働きがあります。
おすすめの発根促進剤 | |
楽天で購入 | クロネックスは植物の発根に必要なホルモンとビタミンやミネラル等の栄養素を含んだ発根促進剤です。ジェル状で中身を別の容器に移し直接切口を浸すことで使用されます。ジェルは切口を長期間保護する事ができ、病気の感染リスクや導管に気泡が入るリスクを低減する働きをもちます。 |
楽天で購入 | ルートンはオーキシンの一種であるナフタレン酢酸アミドの発根促進剤です。日本で最も利用され安価で扱いやすいホルモンタイプの発根促進剤です。粉状で切口に直接塗布する事で利用出来ます。 |
楽天で購入 | オキシベロンはオーキシンの一種であるインドール酪酸の発根促進剤です。現在は液剤のみが販売にされており、希釈して利用されます。ルートンと比較されることも多く、一般にはオキベロンの方が発根がいいと言われています。 |
楽天で購入 | ビーカズ・ルートは挿し木や種蒔や育苗時に利用できる発根促進剤です。 |
発根阻害物質フェノールの除去
挿し木の切口を褐変させるフェノール物質は、挿し木の成功率を下げる原因の1つです。このフェノール物質の除去には流水による洗い流しや、活性炭を培養土に少量混ぜて有害物質を吸着させる方法等があります。また挿し木後の数日間を暗所で管理する事で切口の酸化が抑制されるとされています。
挿し木の手順
- 必要な道具一覧
- ハサミ
- ナイフ類
- コップ
- 器(育苗箱)
- 用土
1.挿し木は穂木となる枝(茎)をさがす所から始めます。枝(茎)は病気がなく、節間の詰まった当年枝を利用しましょう。成長が止まり硬くなった枝は根が出にくいため避けてください。
2.挿し穂で使う枝(茎)は、茎と葉のバランスを見ながら5cm~10cm前後(小さな植物は短い)で切り分け、下部分の葉を取り除いてください。大きな葉を付ける植物の場合は別途、葉を半分にカットしましょう。葉を減らす事で蒸散を減らし水分の吸い上げとのバランスを取ります。
3.枝(茎)が太く木質化等のするものでは切口部分を刃物で斜めに素早くカットして切口の表面積を増やしましょう。切口部分を広げる事で根が出る可能性と給水力を高めます。
4.バケツやコップ等の水を張った入れ物に切口を1時間または半日程付けて水あげしておきましょう。
1.さし床となる器を準備して下さい。挿し穂の量や長さによって器の大きさを選ぶといいでしょう。
2.器に用土を入れ事前に水で湿らせて置きます。用土は立枯病等を防ぐため無菌のものを使用してください。
1.挿し穂の切口を傷つけない為に、用土には事前に深さ3cm程の穴を棒であけておきましょう。
2.挿し穂を穴に挿し、重みや風で挿し穂が倒れない様に、指で軽く用土を寄せます。
3.柔らかな水で散水を行い、用土を完全に湿らせて下さい。
4.高い湿度を保つ為、器と挿し穂に袋を被せておきます。根が形成されるまでの1ヶ月〜2ヶ月の間は直射日光を避けた場所で保管と管理をしましょう。
挿し木後の管理
挿し木後直射日光に当たる場所で管理すると、葉による蒸散と吸水のバランスが崩れ根が出る前に葉が萎れて落葉してしまう事があり、その後発根が上手くいかないことがあります。根が出るまでの1ヶ月〜2ヶ月は明るい日陰に置くか寒冷紗等で日除けをつくり、そこで管理しましょう。
用土は乾くと切口が乾燥して吸水力が落ちる事があります。少し湿り気をもつ位で管理しましょう。水やりの頻度にあわせて用土(パーライトかバーミキュライト)を選ぶと後の管理が楽になります。毎日水やりができる場合はパーライト、忙しい人はバーミキュライト等で保水性を上げるといいでしょう。
また挿し穂が風や水やりで動くと発根しにくくなったり根が切れる事があります。柔らかな散水で水をやり、普段は袋やカバーを付けて置くといいでしょう。
活着後は徐々に日に当て、薄めた液肥を与えましょう。鉢底から根が出たり、新しい芽が出て成長を感じ始めたら鉢上げをおこなってください。
鉢上げでは用土から植物を抜く際に根が切れたり傷つく事が多々あります。それを防ぐには単独で植える、もしくはパーライトや川砂等の鉢上げのしやすい用土で育てると失敗が少なくなります。
株分けが行える時期や手順
株分けとは親株から根と芽を複数付けた状態で株を縦に割り、複数の小さな株にして増やす方法です。
挿し木や種等による増殖と比べて、元から根がある株分けは活着しやすく初心者でも容易に増やせます。また株を若返らせる効果をもっており、多くの植物は2年から5年ごとに過密になった株を分割して更新することで若返りをはかります。
株分けの時期と注意点
株分けは成長期間内であればいつでもできますが、最も適しているのは早春もしくは秋です。逆に真夏や真冬に行うと暑さや寒さで活着が上手くいかずに枯れてしまうことがあります。株分けを失敗しないためには急がずに適した時期に行うのがいいでしょう。
また花芽の出来る直前や花芽を作る最中に株分けを行う事は開花しなくなる事があるのでおすすめしません。その様な場合は花が咲き終わった後に株分けを行うといいでしょう。
株分けした後は、根を痛めて吸水する力が落ちてしまい葉からの蒸散とのバランスが取れずに萎れて植物が弱る事があります。根が少なくなった際は茎や葉を切り戻して根とのバランスをとりましょう。
株分けの手順
ステップ1
植物体を土の中から掘り上げる、もしくは鉢の中から取り出します。土を軽く落とし根や茎の位置を確認しましょう。
ステップ2
茎や芽、根の位置を目安にして株分けを行います。指もしくはナイフやハサミで、根と葉を持つ塊を数個に分けるように分割しましょう。
ステップ3
株分け後は根が乾燥する前に植付けてください。植付け後は根が傷ついたり根量が減る事で葉が萎れたり枯れる事があります。根と葉のバランスを考えながら切り戻しをするといいでしょう。
取り木のやり方
取り木とは親株から切り離さずに茎の途中から発根させ、根が出た後に親株から切り離して定植する技術です。
挿し木と比べると、取り木は手順が複雑になりますが、親木から水分や養分を受け続けながら発根までさせるため成功率が高くなります。
取り木は手順が複雑なうえ大量増殖が難しいため、あまり一般的ではありませんが、挿し木で発根しにくい植物などでは有効な技術です。
高取り法
高取り法は、茎が硬く地面まで曲げられない植物で行われます。ナイフやカッター等で表皮もしくは茎の一部に切れ込みを入れ、水苔等で包み込んで発根させます。
圧条法
圧条法は茎が柔軟で曲げやすい植物(クレマチス/フジ等)で行われる事が多い方法です。茎の1部を土に触れさせる、または茎を土に埋めて発根させます。
取り木のやり方
取り木のやり方は大きくわけて2種類です、茎を曲げずに地表で行う「高取り方」もしくは茎を曲げて地面下で行う「圧条法」です。
高取り法
高取り法は茎が硬く地面まで曲げられない植物等で行われる取り木方法です。ナイフやカッター等で茎の一部に切れ込みを入れ、傷付けた部分を湿らせた水苔で包み込みビニールで巻いて数週間管理して発根するのを待ちます。発根後は下部分から切り取り定植しましょう。
高取り方は切れ込みの入れ方で二通りのやり方があります。
環状剥離法
環状剥離法は木質化する植物に適した方法です。
切り込み法
切り込み法は木質化しない植物に適した方法です。
圧条法
圧条法は、柔らかな枝を曲げる事で一部を土の中に埋め土中で発根させて増殖させる方法です。
ステップ1
地面に穴を掘り、茎を穴に入るように曲げてフック等で固定しましょう。
ステップ2
固定した茎の先は出来るだけ垂直になるように地面から出してください。垂直に近いほどよい結果が出るため、地面から出る茎は支柱等で固定して上げるといいかもしれません。
ステップ3
穴に入れた茎に土をかぶせてください。発根するまで茎の埋まってる部分にも十分に水やりをしてあげましょう。