栄養繁殖とは、根・茎・葉などの栄養器官を使って繁殖させる無性生殖の一種です。繁殖の方法には、挿し木・株分け・取り木などの方法があり、種子繁殖と違い親株と同じ遺伝子が受け継がれる事から、子株は親株と同じ形・色・性質を受け継いでいる所が特徴になります。そのため、優れた特性を持っている園芸品種などは栄養繁殖で増やされるのが一般的です。
ここでは、栄養繁殖の挿し木・株分け・取り木などで株を増やすときの手順や、成功させるコツなどを紹介しています。
■挿し木(挿し芽)の方法
挿し木(挿し芽)とは、植物の一部(茎・葉・根)を採取して、親と同一の性質をもった株を増やす方法です。
挿し木は採取する部分と繁殖の方法によって幾つかの種類に分類されています。ここでは、分類ごとにかわる繁殖の方法を詳しく紹介しています。
●挿し木(挿し芽)
挿し木(挿し芽)は、広義では葉挿しや根挿し等も含まれる繁殖方法ですが、一般的には茎と葉を使った繁殖方法になります。ここでは、狭義の挿し木の方法について紹介しています。
①挿し木(挿し芽)の適期
挿し木(挿し芽)は、一般的に生育旺盛な時期ほどよく発根して成功率が高くなるため、多くの植物は春から初夏に挿し木がされます。ただし、一部の植物は生育旺盛な時期が秋にあったり、また休眠期が挿し木の適期になる植物もあり一概ではありません。
そのため挿し木をする時期は植物に合わせて行うとよいでしょう。
- 草花:4月~6月・9月~10月※基本的に生育旺盛で生育適温の時期に行います。
- 針葉樹:4~6月※この時期に挿し木をしておけば、冬を迎えるまでに十分な根が発達します。
- 常緑樹(広葉樹):5月~7月・8月(後半)~9月
- 落葉樹:10月~2月※理想的な時期は芽吹きの直前の晩冬です。
②培養土の準備
挿し穂は切り口から病原菌が入り腐敗しやすいため、基本的には無菌の培養土を使用して挿し木した方がよいでしょう。ただし樹勢・草勢が強い植物は土にそのまま挿しても挿し木が上手くいくことがあります。
おすすめの培養土:挿し木専用の培養土・赤玉土・バーミキュライト・ピートモス・パーライト等です。
③挿し穂の選び方
挿し穂の発根力は、基本的に株の年齢が若く、また茎も若いほどに発根力が高い傾向にあります。そのため、茎を選ぶ時は「株の若さ」「茎の成長段階」「茎の成熟度」等に注意して挿し穂を選ぶ事が大切です。
株の若さ
株は若いほどに活力があり、発根力も高くなります。そのため、老齢の株よりも若い株から挿し穂を採った方が成功率が高くなります。
茎の成長段階
茎の成長段階には栄養成長と生殖成長の段階があり、挿し木に向いているのは茎・葉を大きくして栄養成長をしている段階の茎になります。花芽分化が始まり生殖成長をしている茎は、発根率が極端に下がるため挿し穂に使うのは避けた方がよいでしょう。
茎の成熟度
挿し穂は基本的に春の芽吹きから次の春を迎えていない一年枝を使用して挿し木が行われます。
一年枝の中でも挿し穂に使われる茎は成熟度によって緑枝挿し・半熟枝挿し・熟枝挿しの三種類に分類されており、茎の成熟度の違いで発根力の高さ・乾燥のしやすさ・養分の蓄え等に変化があります。そのため、植物の種類によって使われる挿し穂も変わってきます。
- 緑枝挿し:芽が新しく成長し始めて1~2ヶ月後あたりの茎を使った挿し穂です。茎は触ると柔軟で弾力があり、成長に対する活力があります。緑枝挿しは、挿し穂の発根力が高く、乾燥にも比較的に強い特徴があります。そのため、草本・常緑樹・針葉樹などの挿し木でよく利用される挿し穂になります。
- 半熟枝挿し:茎は成熟して成長が止まり、硬くなる前段階にある挿し穂です。茎は養分を沢山蓄えているため枯れにくい傾向があり、一方で緑枝挿しと比べると発根力は弱めです。そのため挿し木が成功するまでに時間がかかる傾向があります。主に常緑樹などの挿し木で使用される挿し穂になります。
- 熟枝挿し:茎は成長が完全に止まり、触っても柔軟性がなく硬くなった挿し穂です。茎は養分を沢山蓄えているため枯れにくいですが、発根力は弱いため挿し木が成功するまでに時間がかかります。主に落葉樹の挿し木で使用される挿し穂です。
④挿し穂の整形
挿し穂は採取した後に「部位」「長さ」「切り口」「葉の枚数とサイズ」を調節して使用します。調節の仕方によっても挿し木の成功率が変化するため、注意が必要です。
挿し穂の部位
挿し穂は使う部位によって頂芽挿し・葉芽挿しの二種類に分類されています。
- 頂芽挿し:茎の先端の頂芽を使った挿し木です。頂芽を残すと、茎の栄養分が芽の成長に取られてしまう傾向にあります。そのため、頂芽の成長期には頂芽挿しはしない方が良いようです。
- 葉芽挿し:茎の先端の頂芽を落としている挿し木です。頂芽挿しのように先端の芽がないため、直ぐに芽が伸びて発根前に栄養を使われる心配がありません。また使う茎の部位を選べるため、ある程度成熟した茎を選べます。※若すぎる芽・茎は乾燥しやすく栄養の蓄えも少ないため、発根までの管理が難しい。
挿し穂の長さ
挿し穂の長さは植物の種類やサイズによって変わります。草本の場合は植物の茎・葉の大きさで変わりますが、約5~10cmほどの長さに調節されます。木本の場合は7~20cmほどの長さに調節されます。
切り口
挿し穂に節が2個以上ある場合は、挿し穂の切り口を節の下にしましょう。根は節からも出るため、発根率が格段に高まります。
葉の枚数とサイズ
葉のサイズと枚数は、茎・葉のバランスを見て決めますが、一般的な植物であれば2枚を残して下部の葉は取り除きます。
葉は光合成・呼吸の役割を担う大切な器官ですが、茎のサイズに対して葉が大きすぎると蒸散が過剰で乾きやすくなったり、葉の重みで茎が動いて根の成長に悪影響を及ぼす場合があります。そのため、葉が大きすぎる場合は枚数を更に減らしたり、半分にカットしたりする必要があります。
⑤水に浸す
挿し穂は、乾燥防止と樹液の水洗いなどをする目的で、挿し穂を培養土に挿す前に切り口を水の中に浸水させる事があります。
※ただし挿し穂を水に浸す方法はメリット・デメリットがあります。固形化する樹液が出る場合を除いて、挿し穂の採取後、すぐ挿し木するなら水に浸さなくても問題ありません。
メリット
- 乾燥防止:挿し穂を水に浸す事で挿し穂の水揚げがされて乾燥しにくくなります。
- 樹液の固形化:植物は傷ついた時に傷口を塞ぐために樹液を出すことがありますが、切り口に樹液が残り固形化すると吸水を阻害する事があります。そのため、切り口の樹液を水で洗い流して樹液の固形化を防ぎます。
- 発根を阻害する物質:植物によっては発根を阻害する物質を含んでいることがあるため、水に浸水させて洗い流します。
デメリット
- 病気の感染リスク:植物の切り口は無防備なため、病気への感染リスクが高まっている状態です。特に水中では、フザリウム・ピシウムなどの病気に感染しやすく、後々に茎が腐敗したり導管を塞いだりする可能性が高まります。そのため、病気に弱い植物や多湿に弱い植物などは水への浸水は避けた方がよいでしょう。
水に浸す方法
- 準備:水と容器を準備して、挿し穂の切り口が浸かる程度の水を容器にいれます。
- 水に溶かす発根促進剤を使用する場合は、このタイミングで発根促進剤を規定の分量入れましょう。
- 挿し穂を浸す:水の中に挿し穂の切り口を付けて、水揚げを一時間から二時間程度します。水揚げが終わったら次の工程に移ってください。
⑥発根促進剤
発根促進剤とは、植物の発根を促進するために使用される薬剤です。一般的に、発根促進剤の中にはオーキシンなどの植物ホルモンやミネラル等が配合されており、挿し木などの栄養繁殖を行う時に切り口に塗布して使用されています。
※発根促進剤の効果は植物によって変わり、効果も格段に高くなるわけではないため必ず必要になる作業ではありません。
発根促進剤の役割
- 発根の効率化:切り口に塗布する事で発根がスムーズに行われます。
- 発根の成功率:発根が難しい植物などの発根の成功率があがります。
発根促進剤の役割
- 発根促進剤の塗布:発根促進剤は粉タイプと液体タイプがあります。
- 粉タイプ:挿し穂の切り口を発根促進剤の粉の中に入れて、切り口に発根促進剤を塗布します。少量だけ使用する場合は、別の容器に使用する量だけ発根促進剤移して使用するとよいでしょう。
- 液剤:製品によって変わりますが、液体を水で希釈またはそのままの状態で、挿し穂の切り口に漬けて利用します。
発根促進剤の製品
⑦挿し穂の挿し方
挿し穂を培養土の中に挿す時に、穴を開けずに押し込むと、茎が曲がったり、切り口が潰れて吸水が悪くなり挿し木の成功率が悪くなることがあります。そのため、培養土に挿し穂を挿す時にも注意が必要です。
挿し穂の挿し方の手順
- ②で準備していた培養土を水で濡らしておきます。
- 挿し穂を挿す場所を決めて、培養土の中に挿し穂の三分の一ほどの深さの穴をあけます。穴は割り箸などの棒を利用するとよいでしょう。
- 穴の中に挿し穂を入れたら、周囲の培養土を寄せて穴を塞ぎましょう。
⑧管理
挿し木が終わったら、いくつかの注意点を守りながら管理しましょう。
管理する時の注意点
- 明るい日陰:太陽が直接当たる日向に挿し木を置くと、蒸散が活発に行われて乾燥しやすくなります。そのため、明るい日陰で管理しましょう。
- 生育適温:基本的に成長が活発な時期ほど挿し木の成功率が高いため、植物によって変化しますが15~25度の生育適温で管理しましょう。低温や高温などの環境ストレスが強い環境は挿し木に向きません。
- 湿度を上げる:湿度を上げることで蒸散量を減らし乾燥を防ぐことが出来ます。
- 水やり:挿し木は乾燥に弱いため、土壌の状態を見ながら、定期的に水やりを行います。
●葉挿し
葉挿しとは、葉だけを使って行われる繁殖方法です。
葉挿しは、ほとんどの植物が出来ない方法であり、一般的に葉の中にたくさんの水分・養分をためていて、発根するまで枯れずに耐えられる多肉植物などでよく行われる繁殖方法ですが、多肉植物以外でも観葉植物などの一部の植物で葉挿しが出来たりします。
ここでは、葉挿しのやり方や葉挿しができる植物などを紹介しているため、参考にしてみてください。
葉挿しの手順
- 葉を選ぶ:葉に張りが張りがあり、栄養・水分を十分に蓄えている、健康で病気のない葉を選びましょう。
- 葉の採取:葉を茎から取り外します。葉が手で外れる場合は優しく取り外し、手で外すのが難しい場合はハサミを使って根元から切って取り外します。
- 乾燥:葉の傷口から雑菌が入らないように、風通しのよい日陰で乾燥させます。植物の種類で変わりますが、数日~1ヶ月ほど乾燥させましょう。
- 培養土を準備:培養土は植物に合わせて準備しましょう。多肉植物であれば専用の培養土を準備して、それ以外であれば無菌の挿し木用の培養土を準備するとよいでしょう。
- 葉を挿す:葉を乾燥させたら葉を培養土にさしますが、植物の種類により葉の挿し方がかわります。
- 多肉植物:葉を乾燥させたら根がでてくるため、根が出てきたタイミングで培養土に根の出てきた葉を植えます。
- カランコエ属:葉を数日間かるく乾燥させたら、葉柄を培養土の中に挿して土を寄せます。
- セダム属:葉を数日間かるく乾燥させたら、葉の切り口を培養土の中に挿して土を寄せます。
- ドラセナ属(サンセベリア):葉を横にカットして数日間かるく乾燥させたら、葉の切り口を培養土の中に挿して土を寄せます。
- ユーコミス属:葉の切り口を培養土の中に挿して土を寄せます。
- ベゴニア(レックスベゴニア):葉を採取したら、葉柄を培養土の中に挿して土を寄せます。また葉脈をカットすると、そこからも子株が発生します。
- 管理:明るい日陰に置いて極度の乾燥を防ぎ、植え付けて数日から数週間が経ったら、水やりを行います。
葉挿し出来る植物
- エピスシア属
- カランコエ属
- クラッスラ属(カネノナルキ等)
- ストレプトカーパス属
- セダム属
- ホヤ
- ドラセナ属(サンセベリア等)
- ムラサキベンケイソウ属(ベンケイソウ等)
- ベゴニア属
- ユーコミス属(パイナップルリリー等)
●根挿し(根伏せ)
根挿しとは、別名で「根伏せ」とも呼ばれる根(地下茎)を使って行われる繁殖方法です。根挿しは、一般的に挿し木などで増やしにくい植物で行われる事が多い方法です。
根挿しの手順
- 根挿しの時期:秋から初冬・晩冬から早春
- 培養土の準備:培養土は植物に合わせて一般的な草花の培養土や庭木の培養土、または挿し木用の培養土を準備するとよいでしょう。
- 根の採取:株をスコップで掘りあげて根を露出させて、鉛筆ほどの太さがある根を5~10cm前後で切って採取します。※根の長さは細いほど長めにとります。
- 植付け:培養土を水で事前に濡らしておきます。根を植付ける場所を決めて、深さ5cmほどの穴をあけて、植物に合わせて水平または垂直に置き、根を覆うように穴を土でふさぎます。
- 管理:根から芽が出るまで培養土が乾燥しないように定期的に水で湿らせて管理します。
根挿しされる植物
- アカンサス
- アネモネ
- イタドリ
- エキナセア
- エキノプス
- エリンジウム
- ヒマラヤユキノシタ
- ブルンネラ
- フロックス
■株分けの方法
株分けとは、植物(株)を2個以上に分割して増やす方法です。
株分けは、根と芽または根と茎・葉をつけた状態で株を分けるため、基本的に失敗がなく簡単に植物を増やせる方法になります。また株分けには植物を増やす以外にも株を若返らせる目的もあり、狭いスペースで密集している株を分割して広いスペースに植え直す事で、根や芽が伸び伸びと広がり生育がよくなる効果があります。
株分け出来る植物のタイプ
●叢生型
叢生型は、短い地下茎を伸ばし密集するように沢山の株が生えている状態の植物です。
株は密集して一塊のようになっているため、株分けできる他のタイプの植物と比べると分割するポイントが少し分かりにくくなっています。
叢生型の株分け手順
- 時期:一般的に早春または秋に行います。育てる植物の植え替え適期に行うとよいでしょう。
- 観察:植物を観察して株分け出来る程度に大きくなっているか確認します。
- 掘りあげ:シャベルなどを利用して、根が出来るだけ傷つかないように株を掘り起こします。
- 観察:株から土を軽く落として根と芽(茎・葉)の状態を観察して、株分け出来そうな部分を探します。
- 分割:一個の株には根とクラウンに3個以上の芽(茎・葉)をつけて、2つの塊に分割します。分割の方法は植物で変わり、手で解して分けるか、手で分けるのが難しい場合は刃物を使用して分割します。
- 定植:株を分けたら、根が乾く前に植えたい箇所に直ぐに植え付けます。
●根茎
根茎とは、地面の下にある普通の根っこのように見える茎(地下茎)です。
根茎は地面の下で水平方向・垂直方向に広がり、茎の節から根・茎・葉を出して、新しい株をつくる事もあります。そのため、株同士が離れていて分割するポイントが分かりやすく株分けしやすいタイプの植物です。
地下茎タイプの株分け手順
- 時期:一般的に早春または秋に行います。育てる植物の植え替え適期に行うとよいでしょう。
- 観察:植物を観察して株分け出来そうな離れた株があるか確認します。
- 掘りあげ:株と株が離れている場合は個別の株をシャベルなどを利用して掘りあげます。株と株が近い場合は2つの株をまとめて掘りあげます。
- 観察:株から土を軽く落として、根茎で繋がっている株同士のポイントを探します。
- 分割:株の間にある根茎を刃物を使用して切って株を2個に分割します。
- 定植:株を分けたら、根が乾く前に植えたい箇所に直ぐに植え付けます。
●走出枝(ランナー)
走出枝(ランナー)は、株の根元から地表を這うように伸びる匍匐枝で、匍匐枝の先端または節から不定根と芽を出して新しい株をつくる茎です。
走出枝(ランナー)は、株根元から伸びる匍匐枝の先に子株を作るため、株同士が離れていて分割するポイントが分かりやすく株分けしやすい植物です。
走出枝(ランナー)タイプの株分け手順
- 時期:一般的に早春または秋に行います。育てる植物の植え替え適期に行うとよいでしょう。
- 観察:植物を観察して株分け出来そうな離れた株があるか確認します。
- 掘りあげ:株と株が離れている場合は個別の株をシャベルなどを利用して掘りあげます。株と株が近い場合は2つの株をまとめて掘りあげます。
- 観察:株から土を軽く落として匍匐枝で繋がっている株と株を探します。
- 分割:株の間にある匍匐枝を切って株を2個に分割します。
- 定植:株を分けたら、根が乾く前に植えたい箇所に直ぐに植え付けます。
●匍匐茎
匍匐茎とは、茎が地表面を張って伸びる茎です。また狭義では、茎の節々からは不定根を下ろしながら広がる植物で、株分け出来る植物は不定根を下ろす植物になります。
匍匐茎は、茎が匍匐して広がり節々で芽や根を出して定着するため匍匐茎を切断すると新しい個体として成長します。そのため、株を分割するポイントが分かりやすく株分けしやすい植物です。
匍匐茎タイプの株分け手順
- 時期:一般的に早春または秋に行います。育てる植物の植え替え適期に行うとよいでしょう。
- 観察:植物を観察して株分け出来そうな離れた株があるか確認します。
- 掘りあげ:株と株が離れている場合は個別の株をシャベルなどを利用して掘りあげます。株と株が近い場合は2つの株をまとめて掘りあげます。
- 観察:株から土を軽く落として不定根と芽(茎・葉)のある場所を探します。
- 分割:匍匐茎に不定根の出ている節を数個付けて、刃物を使い株を2個に分割します。
- 定植:株を分けたら、根が乾く前に植えたい箇所に直ぐに植え付けます。
■取り木の方法
取り木とは、親株と繋げた状態で枝の一部を操作または加工して発根を促し、発根した枝を親株から切り離して、一個の株として利用する繁殖方法です。
取り木は、挿し木と違い親株から栄養・水分が補給され続けるため発根するまでの時間制限が基本的にありません。そのため、発根するまでに時間のかかる植物などによく利用されます。また発根後に親株と切り離して植え付けが行われるため株分けと同程度に成功率の高い繁殖方法になります。
取り木の方法は大きくわけて「高取り法」と「圧条法」の二種類があり、枝の柔軟性により使用される方法がかわります。
●高取り法
高取り法は、地上部で枝を加工して発根の促進が行われる取り木の一種です。高取り法は、一般的に枝が硬くて曲げられない植物で行われます。
高取り法の手順
- 取り木の時期:春または秋に行います。一般的には植物の生育が旺盛な春の季節が取り木に最適な季節となります。
- 観察:春であれば前年の健康に成長している二年枝、秋頃であれば春から夏にかけて成長した当年枝を使用します。枝の先端から下に30cmほどあり、鉛筆以上の太さのある良さげな枝を探します。
- 葉の除去:加工する箇所の葉と脇芽を取り除きます。
- 加工:加工の方法は「環状剥離法」と「切り込み法」の二種類があります。
- 環状剥離法:茎が木質化する植物に適した方法です。観察で予め決めていた加工箇所の枝の表皮を剥がすために、刃物でリング状に浅く切れ込みをいれて、3~5cmほど下にも同様に切れ込みをいれます。枝に切れ込みを入れたら、表皮を指で剥がすか、刃物を使用して薄く剥がしましょう。
- 切り込み法:茎が木質化してない植物に適した方法です。観察で予め決めていた加工箇所の茎に刃物を当てて、約30度の角度で斜め上に向かって刃物を進め入れ、茎の半分程度まで切ります。
- 切り口の保護:湿らせた水苔を切り口に巻いて覆います。また切り込み法で入れた切り口には少量の水苔をかませます。水苔を巻いたら、上からビニールで覆い、ビニールを紐で固定します。
- 定植:水苔から根が現れて、側面から沢山の根が観察出来るようになったら、根が生えている箇所のすぐ下からカットして、根が乾く前に植えたい箇所に直ぐに植え付けます。
高取り法がされる植物
- アグラオネマ属
- クロトンノキ属
- シェフレラ属
- ドラセナ属
- ディフェンバキア属
- ナンヨウスギ属
- フィカス属(ゴムの木など)
- フィロデンドロン属
- ホヤ属
- モンステラ属
●圧条法
圧条法は、柔軟な枝を操作して、枝の一部を土の中に埋めて土中で発根させる繁殖させる取り木の一種です。
圧条法の手順
- 取り木の時期:春から初秋に行います。一般的には植物の生育が旺盛な春の季節が取り木に最適な季節となります。
- 観察:春であれば前年の健康に成長している二年枝、秋頃であれば春から夏にかけて成長した当年枝を使用します。地面の近くから発生している柔軟な枝を探しましょう。
- 葉の除去:地面に埋める箇所の葉と脇芽を取り除きます。
- 枝の操作:観察で探した良さげな枝を地面の方に曲げる。枝の途中の一部が地面に埋まるように押し込みピンで固定する。枝の上部は上を向くように支柱を立てて誘引する。ピンで固定した箇所の枝は土を被せて地中に埋める。
- 定植:地中に埋めた枝から発根しており、根が定着して枝が安定しているようだったら、親株と繋がっている部分の枝を切り離して、株分けして定植を行います。
■球根での株の増やし方
球根とは、根または地下茎が養分を蓄えて肥大化した器官です。
球根は蓄えられているエネルギーを使い、一般的に芽・葉を展開して、時に花も咲かせる事が出来ます。そのため、球根が肥大化して十分に栄養が蓄えられている状態であれば簡単に分球して増やす事が可能です。
また分球して球根を広いスペースに植え直す事で、根や芽が伸び伸びと広がり生育がよくなる効果があるため、定期的な分球は植物の健康的な成長にも寄与します。
球根の種類
●鱗茎
鱗茎とは、短縮茎に葉が重なり層状になっている球根です。鱗茎の葉は肥大化していたり変形していたりして養分を蓄えています。
鱗茎の繁殖は、自然分球したものを植え替えたり、鱗茎から鱗片を剥がして鱗片ざしを行ったりします。
●球茎
球茎とは、茎が肥大化して卵状または球状になっており、外側が薄皮で包まれている球根です。一個の球茎からは複数の芽がでることもあります。
球茎の繁殖は自然分球したものを植え替えます。
●塊茎
塊茎とは、茎が肥大化して塊状(球形・不定形)になっており外側が薄皮がない球根です。一個の塊茎からは複数の芽がでることもあります。
塊茎の繁殖は自然分球したものを植え替えたり、球根を切断して植え替えをおこないます。
●根茎
根茎とは、鱗茎・球茎・塊茎のような特殊化が見られない普通の根っこのように見える地面下にある茎です。
根茎の繁殖は根・節・芽の位置を確認しながら根茎を切断して増やします。
●塊根
塊根とは、根の部分が肥大化した球根です。
塊根の繁殖は、塊根の先端のクラウンの部分から芽が出るため、芽の位置を確認しながら、クラウンを付けて切断して分球するとよいでしょう。
球根の増やし方
自然分球
自然分球とは、自然に球根が分かれていく球根です。通常は、親球の周りに子球が出来たり、親球が消えるかわりに複数の子球が出来たりします。分球は、この成長した子球を剥がしたり、分けたりして増やします。
切断で分球
切断で分球とは、球根に芽を付けた状態で、ハサミやナイフを使い切断して増やす方法です。切断は芽を確認してから行われる事が多い事から、掘り起こし、保管した後、植え付け前に芽を確認してから切断分球される事が多いようです。主に塊根・塊茎・根茎タイプの球根でおこなわれます。
鱗片ざし
鱗片ざしとは、鱗茎から鱗片を根元から丁寧に剥がし、培養土に鱗片を挿して繁殖させる方法です。主にユリの球根で行われています。